01八正の寿司


20年以上通っている寿司屋がある。僕が日本一好きな寿司屋。そこのおやっさんと気が合った。絵に描いたような頑固オヤジ。オヤジが立つ定位置がさながらコックピットの操縦席であり、客の皿、厨房の若手の板さんの一挙手一投足にまで目が行き届いていて、手際が悪いとキビシイ言葉が飛ぶ様子は見慣れた風景だった。そこにオヤジが居るという事で店としての全体のバランスが保たれていたし、お客も味は元よりオヤジに会うために足を運ぶような店だった。
昨年久々に暖簾をくぐると、なんだか様子がオカシイ。店内の照明も暗い感じ、なんだか精彩がない。おやっさんが居なかった。おかみさんに聞くと、入院されたそうだ。不治の病。それから1年を待たずにオヤジは逝った。板さんから連絡をもらって、せめてお花でもと思ったがおやっさんの遺志で受け付けてもらえなかった。
おやっさんがそこに居る事で持っていた店が、おやっさんを亡くしてやって行けるのか?先日様子を見に行った。そして目を見張った。活気づいている。おやっさんが居なくなった大きな穴を、おかみさんと若者達が埋めようと必死なのだ。花板さんが、かつておやっさんが居た場所に立ち懸命に仕事をしている。そこに頼もしさを感じる。厨房の若手達も、おやっさん直伝の教えを踏襲しイキイキ無駄無く動いている。フーム!おやっさんがなくなったのはとても寂しく悲しい事だ。しかしトップがすべて仕切って君臨している状況では「下」が育ちにくい。場合によっては萎縮してしまう。おやっさんよぉ!あんたが死んで店がどうなるか心配したけど、ちゃんと次の世代へのレールを敷いて逝ったのだね。これには驚いた。
生前「雑誌にこの店紹介してもいい?」と何度も聞く俺に「それだけはカンベンして」と頑なに取材を拒否し続けたおやっさん。2年程前にどういう風の吹き回しか「アンタが書くんやったらええよ」とようやく言ってくれて、でもその時は俺、紹介するメディアを持ってなくて、今回ようやく書かせてもらったわ。店はよく流行っている。おやっさんが築いた礎の上に、新たな花が咲こうとしている。また大阪に帰ったら、おやっさんを偲びつつ旨い寿司を食いに行くでー!「タチウオのあぶりとカワハギの肝乗せ握ってー!」。














